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ナムジャイブログ

殘缺的寓言

殘缺的寓言

その場なきゃ

   

月虹はうんと昔、行き場を無くして彷徨っていた自分を拾ってくれた組長を、本当の親よりも愛していた。月虹がどこか古臭いのも、昭和の任侠の世界を生きてきた組長の生きざまに影響されているからかもしれない。弱気を助け強きをくじく。薬に決して手を出してはいけない。堅気に迷惑をかけるのが一番いけない。手駒の女は、誰よりも大切にする。
「いいか、月虹。おれの生きてきた極道や、おまえのやってるスケコマシなんざ、本当はまっとうな奴がする商売じゃねぇ。社会の片隅でひっそりと生きてゆくのが似合いなんだ。いいな、こうしてお天道様の真下に居させてもらってることに感謝するんだ。俺は今更、極道以外で生きてはいけねぇが、楽して生きようなんて思っちゃいねぇ。おめぇが、楽したいっていうならいつでも破門してやるから、他所へ行きな。」
薬を仕入れて楽に金もうけしたらどうですかと言った月虹に、おれの所に居たければ薬には絶対手を出すなと、本気で怒鳴った鴨嶋組長だった。
月虹は知らないが、老人は最愛の妻を、薬物で失っていた。まだ看板を上げる前、親組の抗争事件の身代わりで警察に出頭した若い鴨嶋が刑期を終えて家に帰った時、待っていたのは白木の位牌だった。ただ一人待つ寂しさに薬に溺れ、ふらふらと路上を歩いているところを車にはねられたのだと言う。
「……おれはな。薬を売る奴だけは、どうあっても許せねぇんだよ……良い金になるらしいがな。」
「すみません!親父さん!二度とふざけたことは口にしませんから許して下さい。」
穏やかに見える老人が、血相を変えたのをはじめて見た月虹は、言葉を失いに額をこすり付けた。恐ろしいほどの気圧に、戦後を生き抜いてきた鴨嶋の生きざまを見るようだった。
だから月虹は、舎弟の涼介にも同じように、そんな話をした。
「いいか?何が有っても鴨嶋の親父に恥をかかせるようなことは、しちゃならないんだ。涼介のことは可愛いが、親父と涼介、どっちかの玉(命)をこの身体を張って護らいけないって時は、おれは、間違いなく親父の方を守るぜ。涼介には悪いがな。でもな、涼介、全部のカタがついたらきっとお前の所に戻ってやるから、一人になっても泣くなよ?」
そんな時、涼介はふるふると頭をふる。
「そんな兄貴だからこそ、おれはくっついて舎弟やらさせてもらってるんす。仁義忘れちゃ、極道の意味ありません。おれだって、月虹の兄貴の事、命張って守る覚悟黃斑部病變位あります。月虹の兄貴。おれ、兄貴のことまじで、す……尊敬してます。」


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